正直に言うと、

ここでの暮らしが少し辛いときがある。

まわりに民家が一件もなく、

あるのは荒れた雑木林と

ただっぴろい耕作放棄地。

自動車がなければ、ゴミ出しにもいけない。

急な坂道の下にある一軒家。

それが、この庭のある家だ。


整った状態に維持管理するなんて

到底不可能に近い広大さ。

荒れた雑木林や、蠢く獣たち。


そんな場所で、せめて、家のまわりだけでも、

小奇麗にしたくて、つくり始めた

ささやかな庭。

私にできることを少しづつ…



本音をいうと、

ガーデニングができなくてもいい。

こんな、寂しい人の寄り付かない

場所が好きで暮らしているんじゃない。

居心地だって決してよくない。



頑張りすぎて、疲れたのかな…

庭に出ることも、辛く感じる。

時々だけど…。





きれいに咲いたバラにもクレマチスにも、

荒れ果てた雑木林から押し寄せる


どこか人を寄せ付けない

暗い空気が陰を落とす。



庭づくりを始めて10年。

その陰に未だ怯えているのだ。





そんな気持ちを正直に


主人に打ち明けてみた。


彼はこの土地の持ち主だから。


ここの暮らしをどう思っているのだろう…。




『おやじやおふくろの苦労を、
             知ってるからな…俺は。』


彼は感じているのだろう。


山を切り開いて、家族のささやかな

暮らしを守ってきた両親の愛情を。



でも、途中からここにやってきた他人の私には、

わかるはずもないのだ。


ここの恩恵を受けて育ってきた彼とは違うもの。


そう思ってた。

 
彼は続けた…


『生きることに必死で、

              楽しむ余裕なんかなかった。』


『兄弟はここから出ていくことしか

      考えてなかったから、

     ここを綺麗にするなんて

誰も思いもしなかったんだ。』


『途方に暮れることもあったよ。正直。』



『だけど…』


『俺、この庭が好きだ。

      朝日にキラキラしてて。


こんな場所でも花が咲くんだなって。

         ここも捨てたも捨てたもんじゃないって。

バラも咲く庭ができるんだって。


          そう思うとなんだか…

     とても、うれしくなるんだ。』



耕すことを拒まれた農地。

ほっとかれて、荒れた雑木林になってしまった場所。

その中に、ここだけ60年以上も生活の営みが続けられた。

森の陰にあって、そこだけポッカリと開け、

風が吹き抜け、光が差し、

濃い陰影を浮かび上がらせる。





この土地のもたらす恩恵。

まだ私は実感が少ないんだと思う。


でも、彼の言葉から少しは、


感じとることができそうな気もする。


このささやかな庭がもたらす『幸福感』。


ここで庭をつくり、暮らす価値を…。


無駄ではなっかたみたい。

少なくとも、彼は喜びを感じている。



それを知ることができた。


きっと、やり続ければたどり着ける。

雑木林の陰に広がる

陰鬱な空気も払いのけるような

喜びに満ちた庭。


コツコツと。モクモクと。


今やれることをしっかりやろう。

彼の喜びを知って、

辛い気持ちが、少し軽くなった。